当記事では、「LSDトレーニングの効果や練習方法」、「LSDトレーニングをすることで、なぜ強くなれるのか?」ということを解説していきます。
また、最後まで読むことで、漠然とLSDをやるのではなく、なぜLSDをすると強くなれるのか理解することができます。
LSDとは
LSDとは、『Long Slow Distance(長い・ゆっくり・距離)』 または『Long Steady Distance(長い・一定の・距離)』の頭文字を取って省略した造語です。
つまい、LSDとは、長い時間をかけて、長い距離を走るトレーニングです。
後ほど詳しく解説しますが、最大心拍数の60%~70%ほどの力で自転車を走らせます。
例えるなら、友達と楽しく会話できる程度です。
LSDの効果とは
LSDによって、ロードバイクの基礎能力が身につきます。
- スタミナの向上
- 筋力・筋持久力の向上(体幹などが鍛えられる。)
- フォームの習得
- ペダリングの向上
これぐらいなら、「まあ、そうなんだろうな」と誰もが想像がつくことでしょう。
ですので、今回はもう少し踏み込んで、なぜこれらの基礎能力が身に付くのかというところまで掘り下げて解説してきます。
スタミナの向上(ミトコンドリアの増加と毛細血管の拡張)
ここからは、なぜLSDトレーニングをするとスタミナが向上するのか解説していきます。
ミトコンドリアが増加するとなぜスタミナが向上する?
LSDトレーニングをすると、ミトコンドリアが増加します。
「ミトコンドリアって何?どんな役割をするの?」と思いましたよね!
まず、それらの疑問にお答えする前に、体のエネルギーの源のお話をします。(エネルギーの使われ方がミトコンドリアの影響を受けるので面倒かもしれませんがお付き合いくださいませ!)
ロードバイクに限らず、スポーツなどの運動をすると、体の中にある糖質を消費します。
そして、糖質のほとんどは、『グリコーゲン』という物質になります。
このグリコーゲンですが、体内ではわずかな量しか蓄えることができません。
一般的な大人の方で2000kcal、アスリートで2500kcalが平均です。
スポーツを何もしない人であれば、これだけのカロリーを消費することはなかなか無いと思いますが、ロードバイクに乗る人は例外です。
例えば、フルマラソンを1回走ると約2500kcalを消費すると言われています。
ロードバイクのレースでは、1日に100km、200kmと走ることがあります。
消費カロリーは、フルマラソンに匹敵するか、それ以上になります。
これだけカロリーを消費してしまうと、グリコーゲンが体内の上限一杯まで蓄えられていたとしても、枯渇してしまいます。
なので、サイクリストたちは、ちょこちょこ補給食を摂るわけです。
でも、補給食を取れないときもありますよね。
じゃあ、どうするか?
糖質(グリコーゲン)以外のものを消費してエネルギーにします。
それに、関係してくるのがミトコンドリアなのです。
先ほど、グリコーゲンは「一般的な大人の方で2000kcal、アスリートで2500kcal」ほど体内に蓄えられると言いました。
しかし、私たちの体内にはグリコーゲン以外にもエネルギーになる材料があります。
それは、脂質です。
例えば、体重が65kgで体脂肪が13%の人がいたとします。
体内の脂質の量は、65kg×0.13=8.45kgになります。
脂肪の2割は水分と言われていますので、実際の脂肪の量は、8.45kg×0.8=6.76kgとなります。
脂質は、1gにつき9kcalのエネルギーを有していますので、
6760g(脂質)×9kcal=60840kcalとなります。
ですので、体内の脂質が有するエネルギーは60840kcalで糖質2500kcalの約24倍になります。
だったら、糖質(グリコーゲン)ではなくて、脂質をエネルギーとして燃やせば効率的ですよね。
そこで、その役割を担うのが『ミトコンドリア』なのです。
糖質や脂質は、そのままエネルギーとして消費されるのではありません。
一旦、『ATP(アデノシン三リン酸)』に作り変えられることによって、消費されるようになります。
その作り変える作業を担ってくれるのが、『ミトコンドリア』です。
ミトコンドリアを増やすと糖質だけではなく、脂肪もエネルギーとして消費しやすくなります。
それでは、どうやってミトコンドリアを増やすことができるのでしょうか。
それは、LSDのような強度の低いトレーニングになります。
長距離を長い時間走ることで、筋肉内のミトコンドリアが増え、より脂質をエネルギーとして消費してくれるようになります。
これがいわゆる、スタミナがついた状態というわけです。
ちなみに、長い距離を『ゆっくり』と走ることが大切です。(速く走ってしまうとグリコーゲンが消費されやすくなります。)
毛細血管の拡張するとなぜスタミナが増加する?
毛細血管は、運動によって刺激を受け、増加することが知られています。
もちろん、LSDトレーニングも同様に毛細血管を増加させます。
スポーツにおいて毛細血管が広がることには、いくつかのメリットがあります。
- 酸素供給の向上: 毛細血管が広がることで、組織や筋肉に対する酸素供給が増加します。これにより、筋肉が酸素をより効率的に利用でき、持久力やパフォーマンスの向上が期待されます。
- 栄養素供給の増加: 拡張された毛細血管は、栄養素やエネルギー供給の増加に寄与します。これにより、筋肉や組織が必要な栄養素をより迅速に取り込むことができ、トレーニングや競技の効果が向上します。
- 老廃物の排出促進: 拡張された毛細血管は、体内の老廃物や乳酸などの代謝物質の排出を助けます。これにより、疲労物質が蓄積しにくくなり、筋肉の疲労が遅延され、パフォーマンスが持続しやすくなります。
- 体温の調節: 毛細血管の拡張は体温の調節にも寄与します。運動中は体温が上昇するため、血流の増加により体温を適切な範囲に維持しやすくなります。
これらの効果は、運動においてパフォーマンスを向上させます。
毛細血管の拡張は、運動やトレーニングの継続的な効果として、適切な血流が維持されることにより、身体の健康と機能性が向上することにもつながります。
筋力・筋持久力の向上
LSDトレーニングによって筋力・筋持久力も向上します。
筋力(パワー)の向上
一般的に筋力を上げるには、ウエイトトレーニングのように重いバーベルなどで負荷をかけて、少ない回数の動作で鍛えます。
なので、LSDのような長距離トレーニングでは、筋力がつかないと思われがちです。
これは、たしかにそうですが、間違いでもあります。
LSDの長距離トレーニングでは、ウエイトのトレーニングのような神経系発達による筋力向上は得られません。
しかし、LSDトレーニングでは、筋肥大による筋力向上は得られます。
筋肉量が増えて筋肉が大きくなれば、必然的に筋力も強くなるからです。
また、近年の研究では、筋肥大はトレーニングのボリューム量が大事ということがわかってきました。(筋トレ界隈では常識になっています。)
重めのギアでLSDに取り組み、足に高ボリュームの負荷をかけることで脚(速筋)は筋肥大します。
ちなみに、軽めのギアでLSDに取り組めば、遅筋が筋肥大しやすくなります。
ただし、これはあくまで消費カロリーより摂取カロリーが多いときの話です。
よくマラソン選手は毎日長距離を走っているから筋肉まで削れて足が細いなんていう人がいますが、そうではありません。
彼らは、毎日の練習に加えて、減量も行っています。
マラソン選手であろうと、消費カロリーより多くカロリーを摂れば、脚はでかくなっていきます。
なので、LSDで脚が細くなってしまうのではないかと思っているトラック短距離勢の皆さんは安心してください。
LSDをしても、それ以上に飯を食えば、脚は細くなりません。
ただし、ウエイトトレーニング単体をしている人と比較すると、筋肥大のスピードは緩やかになる可能性があります。というか、実体験からして筋肥大のスピードは落ちます。
私自身、サッカーをやっていたときは、筋トレをしても多少は筋肉がつきましたが、有酸素運動をしていない時期の方が圧倒的にデカくなる速度が早かったです。
やはり、LSDはそれなりにカロリーを消費するので、その分ちゃんと飯を食べないと筋肥大に必要な栄養が不足がちになり、結果筋肉も付きにくくなるのでしょう。
筋持久力の向上
筋トレ界隈では、高回数低重量のトレーニングで筋持久力が鍛えられるというのは有名な話です。もはや、常識と言っても過言ではありません。
LSDは、高回数低重量の最たる例です。
脚の筋肉にネチネチと負荷をかけ続けることで、筋持久力はついていきます。
フォームの習得
速く自転車を走らせるには、フォームはとても重要です。
空気抵抗の少ないエアロフォーム(風の抵抗をなるべく受けないように、頭を上げて上半身は前傾)と言われるフォームで走ることができれば、より速く自転車を走らせることができます。
しかし、このエアロフォームを維持するのに、体幹の筋肉を使います。初心者のうちは、数分もすると疲れを感じてしまうでしょう。
LSDトレーニングでは、長距離を走ってフォームを維持するための筋肉を鍛えることができます。
ですので、LSDを行うときは、「すべての時間でエアロフォームを維持しないさい!」とは言いませんが、できる限りエアロフォームを維持した方が質の高い良い練習になります。
ペダリングスキルの向上
LSDトレーニングは、ゆっくり走る練習です。
ゆっくりなので、色々と試行錯誤しながらペダルを回すことができます。
インターバルトレーニングのような状態で足先まで意識を回すのはなかなか難しいですが、LSDのように比較的ゆったりとしたペースならば、ペダリングをより意識できます。
また、より少ない力で自転車を効率的に進めるためには、綺麗な無駄のないペダリングが必要不可欠です。
さらに、ペダリングの質次第で、今まで出せなかったトップスピードを出したりすることもできます。
私の経験ですと、スプリント時にペダルリングが未熟だった頃は、時速55km/h前後が限界だったのですが、ペダリングを少し理解したら時速60km/h以上出せるようになりました。
もちろんスプリントのペダリングは、スプリント練習で習得する必要があるので、LSDだけで完璧にペダリングを習得できるわけではありませんのでご注意を!
LSDの練習方法と頻度
『最大心拍数の60%~70%。最低2時間。理想は4時間以上。可能であればできるだけ長い時間』です。
ちなみに、レースガチ勢向けです。
頻度は、各々の出場するレースに合わせて調整しましょう。競輪選手なら週1するかしないか程度(人による)ですし、ロードバイク選手なら時期にもよりますが週5はやるでしょう。
初心者の方は、週2回、2時間程度から始めてみてください。
なれてきたらどんどん回数や時間を増やしていきましょう。
ちなみに、この数値の根拠は栗村修のいちばん身につく 最強ロードバイクトレーニングのP154に書いてあることを初心者の方向けに改良したものです。書籍には、「心拍数120程度、軽いギア(39×19)でケイデンス110、それを4~5時間以上楽しく走ってください!」とあります。
しかし、これって初心者に厳しすぎるんです(笑)
まず、心拍数の値は年齢やレベルによって変わるので、心拍数は120ではなくていいです。最大心拍数の60%~70%にします。つまり、人によっては心拍数が110の場合もあります。次に、ケイデンス110ですが、これを4~5時間維持するのは、経験者でもかなりきついです。初心者の方は、まず無理です。なので、初心者の方は、好きなギア、好きなケイデンスでいいので、なるべく長い時間ロードバイクに乗りましょう。最初は、それだけで十分。むしろ、長い距離を走るだけで精一杯です。
このあたりの話をもっと詳しく知りたい方は、栗村修のいちばん身につく 最強ロードバイクトレーニングのP154あたりを読んでみるといいですよ。
まとめ
LSDは、どんなサイクリストでも必ず取り入れた方がいい練習です。
時間がない方の中には、インターバルトレーニングなどで効率のいい時短練習を取り入れる方もいて、それはいいのですが、LSDでしか得られない能力もあるので時間がなくてもレースを目指すなら、必ず少しでもLSDを取り入れましょう!
今回は、以上です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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